「楽しいことがまだたくさんあったのに、こんな形で出会うことになるなんて……」

圭介の言葉にマルティンが「そうだな」と呟く。ゼルダも「お母さんたちが泣いているのを見ると、自分まで泣きそうになっちゃうわ」と言いながらあふれた涙を拭う。

「でもさ、世の中には平気で自分の産んだ子どもを虐待する親もいるんだぜ?何でそういう人たちのところに子どもってできるんだろうな。子どもを望む人にはなかなかできないこともあるのに」

今の世の中は少子高齢化だ。子どもの数はグッと少ない。しかし、ニュースを見ていると虐待のことばかりが流れている。先日も虐待によって四歳の子どもが命を落としていた。

「……日本に戻ってきて最初に解剖したのは、虐待を受けて亡くなった小さな子どもでした」

蘭も手を止めて、アーサーたちを見つめていた。マルティンが「そういえば、蘭の日本での初めての解剖があの事件だったな」と呟く。

「食事を与えられていなかったため、その子の胃の中には何もありませんでした。体には火傷の痕や暴行の痕がいくつもありました。どうしてあの命を誰も救えなかったのか、今でも疑問に思っています」