大人になったらどんな仕事に就きたいか。それは保育園や幼稚園に通っている頃から聞かれることだ。蘭にもそんなことを聞かれたことがあったが、あの頃は何もしたいことがなかったので答えられなかった。

親の言葉は将来の夢に大きく関わるのだと蘭はアメリカで暮らしていた頃に知っている。医大に通っていた頃、「親に医者になれって言われたから自分の夢を捨ててここに来た」という学生も少なくはなかったからだ。

「夢を叶えるって大変だよな。したい職業に就いたとしても理想と現実は違うし」

アーサーはそう言い、オムライスを口に運ぶ。そして何度目かわからない「おいしい」という言葉を呟いた。

蘭は食べ終えたため、食器をキッチンへと運ぶ。そして皿洗いをしている間に考えていた。

「お父さんたちや星夜さんがいたから、私はやりたいことを見つけられたのですね」

そう呟き、胸元につけられたエメラルドのブローチにそっと触れる。どこか温かくて冷たいものが心の中にあった。