彼は料理がとても上手だった。和食から洋食、中華までなんでも作れてしまう。
 お母さんに言われ、通ってまで料理の腕を磨いてきた私が舌を巻くほど。

「おいしい」

 彼が作ってくれた厚焼き玉子はとても絶品。かたちも色もきれいだ。

 完食して片づけを済ませると、家事をする前に弦さんにお礼のメッセージを送った。

【今朝は起きられず、すみませんでした。朝食とてもおいしかったです。ありがとうございます。お仕事頑張ってください】

 絵文字を入れるか毎回悩むが、今回も入れることなく送信。そのまま家事に取りかかるが、ふとした瞬間に弦さんのことばかり考えてしまう。

 そもそも結婚の話を両親から聞かされた時には、こんな生活が始まるとは夢にも思わなかった。

 愛のない政略結婚とはいえ、夜の情事は覚悟していた。後継ぎを所望されているはずだし。
 でも義務的なものだと思っていたのに……。

 昨夜のことを思い出し、掃除をする手が止まる。

 初めての夜も弦さんはとても優しかった。常に私の身体を気遣い、まるで壊れものを扱うように触れてくれて……。それは彼に愛されていると錯覚するほど。結婚して三ヵ月、ほとんどの夜を彼と過ごしている。