もちろん俺の理想の家庭論を話せば、誰もが口を結んだが。
 樋口未来はどうだろうか。やはり彼女もまた家柄や財力が目的で、だから俺と結婚したいと思っている女性だろうか。

 気になり、こっちから切り出した。

「未来さん、ひとついいだろうか?」

「はっ、はい」

 俺の声に大きく身体と震わせると、怯えた目で俺の様子を窺う。

「なんでしょうか?」

 ビクビクされると、なぜか胸が痛む。

 いや、社内でも会議の席に着けば怯えた目を向けられることなど何度もあった。それなのに、どうして彼女に怖がられていると思うと、傷ついている自分がいるんだ?

 初めて芽生えた感情に戸惑いながらも、ジッと俺の答えを待つ彼女に気づき慌てて口を開いた。

「両親がそうであったように、俺も家を他人に任せるようなことをしたくない。だから結婚後は家政婦などを雇うことなく、家事などは俺とふたりでやってほしいんだ。それさえ了承していただけるのなら、今すぐにでも結婚の話を進めさせてくれ」

 これは今までの婚約者すべてに伝えてきたこと。誰もが話を聞いて絶句し、向こうから結婚はできないと断ってくるところだが……。

 なにも言わない彼女を見ると、キョトンとしている。