それと仕事のことしか頭にない俺とは、一緒にいてもつまらないようだ。

 けっきょく誰も俺をひとりの人間として見てはくれない。だったらもう結婚などしなくてもいいのでは? 守るべきものがなくても、仕事に精進することはいくらだってできる。

 しかしそれを両親が許さなかった。ふたりもまた親が決めた政略結婚ながらお互いを好きになった。

 だから息子である俺にも、きっかけはなにであれ、好きになった相手と結婚してほしいと願っているようだ。

 そんな両親は昔から俺がいてもお構いなしにイチャつく。それは今も変わらない。子供の前でなにをやっているんだと思いながらも、両親が羨ましくもあった。

 お互いのことを大切に想い合っている。そこまで好きになれる相手と出会ってみたい。

 だから、毎回父さんに縁談話を持ちかけられるたびに期待していた。もしかしたら運命の相手かもしれないと。

 そして今日もまた、淡い期待を少しだけ抱いて来たわけだが……。

 挨拶を交わしてから数分経つが、一向に彼女は口を開こうとしない。ただ俯いたまま。

 これまで出会ってきた女性とは明らかに違う。皆、一方的に自分のことを話してきた。そして早く結婚したいと口を揃えて言う。

 そんな女性たちに圧倒され、俺はほとんど口を開くことも叶わなかった。