キッチンへ入ると、ワイシャツの袖を捲り、エプロンをつけた弦さんがフライパンで目玉焼きを焼いているところだった。

 私に気づくと弦さんは「おはよう」と眩しい笑顔で向けた。

「おはようございます。すみません、ご飯用意してもらって。……でも、また勝手にアラームを止めましたよね? 私、もうつわりも落ち着いたので大丈夫ですよ?」

 やっと吐き気も収まり、今は食欲が増して困るほど。だからご飯の準備だってできるのに。

 でも弦さんはそう思っていないようで、顔をしかめた。

「なにを言っているんだ? まだ安定期に入っていないんだ。安静が一番だ。いいか? くれぐれも俺がいない間、無理だけはするな」

「……はい」

 厳しい口調で言われ、ただ返事をすることしかできない。

 弦さんがここまで過保護だということを初めて知った。

 とにかく私が少しでも家事をしようものなら、全力で止めにくる。結婚前にあまり他人を家に入れたくないと言っていたのに、私が快適に過ごせるようにと、家政婦を雇い始めた。