未来は、これまで出会ってきた女性とはすべてが違った。

「はじめまして、樋口未来です」

 立派な日本庭園もある都内のホテル。一階にあるレストランで初対面した日のこと。
 鮮やかな着物に身を包み、深々と頭を下げた彼女はどこか怯えているようにも見えた。
 それは想像できなかった姿で戸惑う。

 今日は婚約者との初顔合わせの日。もう彼女で何人目の婚約者だろうか。

 どうせ今回も向こうから断ってくるに違いない。それならなにも、両親を交えて本格的な顔合わせなどする必要はない。
 そう思ってふたりで会うことを父さんに提案すれば、なにを勘違いしたのか、「そうか、ふたりで会いたいほど結婚したい相手なのか」と言われる始末。

 そもそも結婚など興味がなかった。もちろんそれなりに恋愛はしてきたし、学生の頃は多少なりとも結婚に憧れてもいた。

 しかし俺には、普通の恋愛結婚など無理だということを、大学生になると痛感させられた。

 告白されて付き合い始めた女性がいたが、交際して半年後に別の男といるところを目撃し、問い詰めると俺のことなど最初から好きじゃなかったと言われた。彼女が見ていたのは俺ではなく西連地の家だけだったんだ。