ひとくち、スプーンで掬ったパフェを口に含む。彼の目がきらきらと輝いて満足げに口元が綻ぶ。
目の前の彼がどうしようもなく可愛い。
自分のケーキをそっちのけにただただ美味しそうにパフェを頬張る彼の姿を眺める。普段は表情変化に乏しい彼だけど甘いものだけは別らしい。なかなか見ることができない彼の表情に私の目は釘付けだし心の中はトキメキで溢れている。
彼がうれしいのなら、私もうれしい。
だらしなく頬が緩んでしまうのはもはや必然だ。仕方のないことだと思う。
ふと視線を逸らすと持っていたフォークが視界に入った。食べようと思って掬ってあったケーキのかけらがやけに目について離れない。思わず彼を見る。
――差し出したら、食べてくれるかな?
美味しそうに甘味を堪能する姿に餌付けしたい欲求がむくむくと湧き上がる。だけどいま一歩、勇気がでない。どうしよう。
「あれ? 食べないの?」
「食べるけど、えっと」
一向に食べようとしない私に彼は小首を傾げる。
当たり前だ。どう見たっておかしい。
私は意を決してそっとフォークを差し出す。
「……食べる?」
おそるおそる窺うと彼の目が途端に丸くなった。
さすがにいきなり過ぎた。だけど行動に移してしまったのだからいまさらだ。食べてもらえなかったら自分で食べよう。失敗は次に活かせばいい。そう思いながら見逃さないように彼の動きを注視する。
彼は耳をほのかに赤く染めながら右へ左へと視線を動かすと私を窺い見た。
「いいの?」
「うん。小萱くんにも食べてほしい」
美味しそうに食べる姿をもっと見たい。
はい、ともう一度わかりやすく差し出す。
彼は一瞬、目を伏せてから軽く身を乗り出した。薄い唇がぱくりとフォークを捉える。
食べてくれた。心がきゅっと熱くなる。
少しだけ顔を赤くした小萱くんがゆっくりと身体を引いた。ちらりと覗いた舌が唇を舐めとる。その仕草を間近で目にして思わず顔を背ける。
顔が熱い。何気ない仕草にとてつもない色気を感じてドキドキが止まらない。何か見てはいけないものを見たような気分になって心が落ち着きそうにない。
ただ小萱くんの食べる姿をもっと見たかっただけなのに。
思わぬ不意打ちに彼を見ることができない。
「これも美味しい。高羽も食べなよ」
「うん」
どうにか心を落ち着かせて私もひとくち食べる。
チョコレート特有の甘くて少しほろ苦い味と香りが口の中でとろけるように広がる。甘いけどくどくない。スポンジもしっとりしてパサつきがなく、アプリコットの酸味が後味を変えていく。これは美味しい。彼を見ると「だろ?」と弾んだ声で返ってきた。私はふにゃふにゃと顔をを緩ませながらティーカップに手を伸ばす。
ふたりでカフェに足を伸ばすのはこれで二回目だった。
一回目は友達として、二回目の今日は恋人として。
彼を好きにならなかったらこうしてデートすることはなかった。好きなものを共有して幸せな気持ちになることも、このお店の味も知ることはなかった。
私にとって〝誰かを好きになる〟ということは〝わからないもの〟でしかなかった。好きとか嫌いとか、恋愛にまつわる話を耳にしたり読んだりしても憧れるものではない、ただただ〝そういうもの〟だという認識でしかなかった。
自分にとってまったくもって未知のもの。
だから一瞬で誰かに恋に落ちるなんて想像すらできなかった。すべて他人事。あまりにも恋に無頓着だった。
でもそれは、小萱くんと関わったことで反転した。
きっかけは突然だった。予想もできないところから始まって、気づいた時には私は恋に落ちてた。
恋しいという感情も、悲しいという感情も、誰かを欲する感情も。
いまなら過去に理解できなかった言葉を理解することができるかもしれない。
私は転機となった数ヶ月前のことを思い返した。
目の前の彼がどうしようもなく可愛い。
自分のケーキをそっちのけにただただ美味しそうにパフェを頬張る彼の姿を眺める。普段は表情変化に乏しい彼だけど甘いものだけは別らしい。なかなか見ることができない彼の表情に私の目は釘付けだし心の中はトキメキで溢れている。
彼がうれしいのなら、私もうれしい。
だらしなく頬が緩んでしまうのはもはや必然だ。仕方のないことだと思う。
ふと視線を逸らすと持っていたフォークが視界に入った。食べようと思って掬ってあったケーキのかけらがやけに目について離れない。思わず彼を見る。
――差し出したら、食べてくれるかな?
美味しそうに甘味を堪能する姿に餌付けしたい欲求がむくむくと湧き上がる。だけどいま一歩、勇気がでない。どうしよう。
「あれ? 食べないの?」
「食べるけど、えっと」
一向に食べようとしない私に彼は小首を傾げる。
当たり前だ。どう見たっておかしい。
私は意を決してそっとフォークを差し出す。
「……食べる?」
おそるおそる窺うと彼の目が途端に丸くなった。
さすがにいきなり過ぎた。だけど行動に移してしまったのだからいまさらだ。食べてもらえなかったら自分で食べよう。失敗は次に活かせばいい。そう思いながら見逃さないように彼の動きを注視する。
彼は耳をほのかに赤く染めながら右へ左へと視線を動かすと私を窺い見た。
「いいの?」
「うん。小萱くんにも食べてほしい」
美味しそうに食べる姿をもっと見たい。
はい、ともう一度わかりやすく差し出す。
彼は一瞬、目を伏せてから軽く身を乗り出した。薄い唇がぱくりとフォークを捉える。
食べてくれた。心がきゅっと熱くなる。
少しだけ顔を赤くした小萱くんがゆっくりと身体を引いた。ちらりと覗いた舌が唇を舐めとる。その仕草を間近で目にして思わず顔を背ける。
顔が熱い。何気ない仕草にとてつもない色気を感じてドキドキが止まらない。何か見てはいけないものを見たような気分になって心が落ち着きそうにない。
ただ小萱くんの食べる姿をもっと見たかっただけなのに。
思わぬ不意打ちに彼を見ることができない。
「これも美味しい。高羽も食べなよ」
「うん」
どうにか心を落ち着かせて私もひとくち食べる。
チョコレート特有の甘くて少しほろ苦い味と香りが口の中でとろけるように広がる。甘いけどくどくない。スポンジもしっとりしてパサつきがなく、アプリコットの酸味が後味を変えていく。これは美味しい。彼を見ると「だろ?」と弾んだ声で返ってきた。私はふにゃふにゃと顔をを緩ませながらティーカップに手を伸ばす。
ふたりでカフェに足を伸ばすのはこれで二回目だった。
一回目は友達として、二回目の今日は恋人として。
彼を好きにならなかったらこうしてデートすることはなかった。好きなものを共有して幸せな気持ちになることも、このお店の味も知ることはなかった。
私にとって〝誰かを好きになる〟ということは〝わからないもの〟でしかなかった。好きとか嫌いとか、恋愛にまつわる話を耳にしたり読んだりしても憧れるものではない、ただただ〝そういうもの〟だという認識でしかなかった。
自分にとってまったくもって未知のもの。
だから一瞬で誰かに恋に落ちるなんて想像すらできなかった。すべて他人事。あまりにも恋に無頓着だった。
でもそれは、小萱くんと関わったことで反転した。
きっかけは突然だった。予想もできないところから始まって、気づいた時には私は恋に落ちてた。
恋しいという感情も、悲しいという感情も、誰かを欲する感情も。
いまなら過去に理解できなかった言葉を理解することができるかもしれない。
私は転機となった数ヶ月前のことを思い返した。