それが何か理解しているようで、全てはわからないのだ。
 モヤモヤとした気持ちだけが残る。


 けれど、1つだけわかる事がある。
 それは、「早く会いたい」という気持ちだった。









   ★★★



 「あの女の考えは、全く予想出来ないな」


 そんな風に呆れた口調で、桜吹雪の集まりを見つめる。
 けれど、その表情には明るさがあった。桜門は単純にうれしかったのだ。彼女が自分の事を知りたいと言ってくれている事が。

 自分が話の途中で彼女を家へと戻してしまったはずなのに、帰すんじゃなかったなと思ってしまう。彼女と共にいる時間は妙に心地がいい。だからこそ、身代わり依頼の助手など、本来ならばいらない仕事を頼んでしまったのだが。

 けれど、文月がここに残っていたとしたら、自分の過去の話をするはめになっていたのだ。
 それは何としてでも避けたかった。彼女を悲しい気持ちにさせてしまうだけなのだから、話す必要などないはずだ。


 「それに、もう少しで俺は……」

 ずっと願っていたこと。
 やっと終わりを迎えるかもしれないのだ。

 けれど、そうなったら今の彼女はどうなってしまうのだろうか。
 彼女を残して………。

 だが、それはずっと昔から考えていた事。わかっていたはずだった。それなのに、どうして迷ってしまうのだろうか。

 これから先の幸せのためだと、思えば仕方がないはずだった。
 それなのに……。


 「………まだ確定していない事だ。悩んでも無駄だ」


 桜門はそう言うと目を瞑った。
 身代わりの力を使ったばかりだ。すぐに眠れるだろう。そんな考えが浮かぶ前に桜門は深い深い眠りについたのだった。


 桜門は考えることを止めて、ふわりと体を宙に浮かせた。
 そしてお気入りにの桜の大木の太い枝の上に乗り、体を横にした。


 「こういう時は寝るに限る」

 
 そう言うと桜門はゆっくりと目を閉じた。
 身代わりの力を使ったばかりだ。きっとすぐに眠れるだろう。そんな事を考える前に、桜門は深い眠りに落ちていったのだった。