最後まで言葉を紡ぐ事が出来ず、視界にはピンク色に染まってしまう。短い時間、目を瞑ってしまった。次に目を開けると、そこは自室にいた。桜並木にいた時間が長かったようで、もうすでに部屋の中は真っ暗だった。カーテンが開いたままだった窓からどこかの部屋の電気や月明かりで光が入ってくる。


 「桜門さんの本当の名前ってなんだろう?」


 誰もいない部屋で、小さな声があふれた。
 そして、気づくのだ。
 桜門の事をほとんど知らないと。
 彼が死んだ理由は気になるが、聞きにくいことだった。けれど、彼がこの世界に生きていた事は本当なのだろう。
 桜門が生きた時代、どんな風に生きていたのか。いつものように笑っていたのだろうか。
 けれど、話しの途中で、文月を飛ばしたのだ。きっと聞かれたくない事なのだろう。それを無理に聞こうとは文月も当然思わない。
 だが、気になってしまうのは確かだ。



 「………何か、桜門さんの事ばかり考えちゃうな」


 トボトボと歩き部屋の電気とエアコンをつけ、カーテンを閉める。
 夕食の時間だが、全くお腹が空いていなかった文月はベットに横になって、そうつぶやいた。
 
 最近は桜並木へと向かって桜門に会いに行く以外の時間でも、彼の事を考えてしまうのだ。
 優しくされるから?それとも助手として必要としてくれるから?
 けれど、頭に浮かぶのは、桜門の笑顔だった。
 現代ではあまり見かけない銀髪。そして長い睫毛も同じ色で、何故か愁いを感じさせるものだった。白い肌の少し結局の悪い青っぽいピンクの唇。それらは、とても美しくその顔で微笑まれると、息が止まってしまいそうになるのだ。
 そんな美男子だから、桜門の事を考えてしまうのだろうか。
 もちろん、それはないとは言い切れない。
 けれど、何か別の理由があると、文月自身も感じていた。