18話「ご褒美」

 


   ☆☆☆



 「文月、お手柄だったな。助手の初仕事にしては上出来だな」


 黒夜が桜並木から帰った後、桜門は上機嫌で微笑み、頭をガシガシと撫でた。そのお陰で髪はぐしゃぐしゃになってしまう。けれど、こんなにもテンションが高い桜門を見るのは初めてだった。
 どうしても、この依頼を成功させたかったのだろうか。
 彼の考えはわからないが、成功ならばよかった、と文月はホッとした。

 姫白の願いを、文月は応援してしまった。
 本当ならば止めたかったはずだ。勝手に助けられる人間に気持ちも知るべきだ、と。
 それなのに、黒夜の葛藤を知り、あの2人にはこの結果がよかったのではないか。と、他人としてそう思ってしまった。
 どちらかが怪我をする未来があって、その怪我をもらうことで彼女が納得し、2人の未来が繋がった事を喜ぶならば、これは正解だったのだ、と。

 きっと黒夜も、文月と同じように葛藤しながら生きていく事になるのだろう。
 それでも、あの愛し合っている2人ならば大丈夫だろう。会ったばかりだが、そんな風に文月は感じていた。


 真剣な表情で考えていた文月の顔を、桜門はいつから見つめていたのか。文月が視線に気づいてそちらに視線を向ける。目が合うと、彼は何故かとても優しい笑顔でこちらを見ていた。
 いつもと同じはずなのに、何故か心が締めつけられるようなものだった。
 最近の桜門は変だ。
 いや、自分が変なのか……文月は、また考え込みそうになってしまった。


 「それでは初仕事を終えた助手に褒美をあげよう。何がほしい」
 「え……ご褒美、ですか?」
 「何でもいいぞ」


 突然、そんな事を言われても困ってしまう。と、返事しようとしてある事を思い付いた。文月は考え付いた事を彼に素直に伝える事にした。