黒夜はそう言いながら彼女に近づき、背中から抱きしめた。そして、同じ方向からその絵を見つめる。

 そこには、片腕を失った女性が、真っ白なワンピースを着て踊っていた。右手には新体操の真っ赤なリボン。それのリボンと彼女の髪はヒラヒラと待っている。そんな女性は、踊りながらも正面を見て、はにかみながら微笑んでいた。
 それはもちろん、姫白だった。


 少し前のデートで、黒夜は彼女をある小さな体育館へと連れていった。貸しきりの体育館で手渡したのは、彼女が昔使っていたリボン。姫白の実家に大切に置いてあるのを見かけたので、その日持ってきたのだ。
 サプライズだったこのデート。始め、姫白は困惑した様子だった。
 高校の頃から全くやっていない新体操。そして、更に片腕を失うというハンデを負っている。
 
 「完璧に踊るのが新体操じゃないさ。今は試合でも観客がいるわけでもないんだ。好きなように踊ればいい」


 黒夜はそういうと、彼女が昔試合で使用した音楽をスマホから流した。その瞬間、彼女の瞳が揺れた。
 戸惑いから、懐かしさを感じて瞳が潤んできていた。しばらく、音楽を聞いた後、彼女の持っていたリボンが揺れた。
 体のバランスを確かめるように、ゆっくりと体を動かしかながらリボンをくるくると動かした。
 少しずつ恥ずかしさもなくなったのか、動きが大きくなっていく。音楽に合わせて自分の今出来る動きをしようと試行錯誤している様子だった。転倒する危険もあったので、近くで見守っていたが、その心配も無さそうなので、壁際に立って彼女がリボンを使い舞う姿をただただ見ていた。
 何度も試合を応援に行ったので、彼女の動きは頭に入っている。今はぎこなさもあるけれど、あの頃のがむしゃらに頑張る姿よりも、楽しもうとする笑顔の方が黒夜は好きだった。
 作り笑顔ではない、心から楽しいと思っている姫白。
 気づくと黒夜は何枚か写真を撮っていた。
 それぐらいに、その場がとても魅力的に見えたのだ。そして、描きたい、と。


 そんな姫白の姿を絵にするのとても楽しかった。昔からの夢なのだから当たり前だ。
 それに恋人になった姫白を描けるので、甘い幸せも上乗せさせれているのだ。
 最高の作品にならないわけはない。