「知ってた」
 「え………え?私の気持ち……を?」
 「俺だってずっと見てたんだからわかってた」
 「それって………そんな事言われた、都合よく考えちゃうよ……」
 「おまえにプレゼントするあの銀杏並木の絵のタイトル、知ってるか?」


 突然話の内容が変わり、姫白は頭の中が混乱してしまう。もちろん、わかるはずもなく「知らない」と答えると、彼はくすりと笑って、そっとある言葉を呟いた。



 「あの絵のタイトルは、『紅茶色の愛しい人』だ」


 姫白は、驚いた表情のまま、あの銀杏並木を2人で並んで歩いた日々を思い出した。
 いつもは自分が彼を見つめている姿しか思い出せない。けれど、今は違う。
 彼も自分と同じように見ていてくれたのだとわかったのだ。

 気づくと、姫白の頬には涙が次々と流れていた。それを黒夜は親指で拭ってくれる。


 「俺が有名になってから言おうと思ってたんだ。先に言うな………」
 「だって……そんなの知らない……」
 「あの日々を過ごした時から俺は姫白が好きだよ。だから、俺はこの守って貰った右腕で、これからは姫白を守る」


 今日はなんて幸せな日なのだろうか。
 大切な人の大好きな絵をプレゼントしてもらい、諦めていた片想いの人と恋人になれた。

 身代わりについては、これからも2人でじっぬりと話していこう。
 喧嘩をするかもしれない。思いが通じ合わなくて、苦しくなることもあるかもしれない。

 けれど、長い長い片想いの時間ほど苦しいものはなかったはずだ。
 そんな2人が一緒になったのだから、乗り越えられるはずだ。
 もし迷ったら、手を繋いであの銀杏並木を見に行けば、きっと大丈夫。

 思い出が2人の背中を押してくれるはず。
 姫白はそんな風に強く思い、黒夜に大切に抱きしめられ、幸せを噛みしめた。

 少し黄色が混ざった赤い紅茶色の病室が、また思い出になるのだろう。