やはり彼はズルい。
 こうやって自分を甘やかす。あの日の思い出を大切にしてくれていると、思ってしまう。

 2人しかしらない、この銀杏並木の色。
 答えられるのは姫白だけなのだ。

 姫白は瞳に涙を浮かべる。けれど、ここで泣いてしまうわけにもいかない。必死に涙を堪える。


 「紅茶色……ですね」
 「ありがとうございます。綴様ですね。こちらの作品は綴様のものになります。後ほどご連絡させていただきます」


 姫白が正解を言うと、女性スタッフはニッコリと笑って、そう言った後に一礼して去っていってしまう。
 姫白は一人その場に取り残されてしまうが、しばらくの間紅茶色の絵の前から離れる事が出来なかった。



 黒夜のサプライズもあり、姫白は興奮したまま病院へと戻った。
 あの絵は自宅に届くのだろう。姫白が実家の本屋を継いだのを知っているし、入院先も知っているのだから。
 きっといつか、あの絵が届く。

 その時は、しっかりと黒夜に連絡しよう。
 勝手な事をしてごめんなさい、と謝ろう。けれど、後悔もしていない事、あなたを助けたかった。
 自分がどうしてあなたの怪我を身代わりに貰ったのか。気持ち事伝えよう。そう、姫白は強く心に決めた。

 それが彼との関係を終わらせる事になったとしても、それは仕方がない。
 彼を助けられたのだから、全てが良くなった。
 長い長い片想いも終わりにしよう。

 さよなら、になったとしても自分には大切なあの日の思い出、紅茶色の銀杏並木があるのだから。