15話「サプライズのクイズ」


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 久しぶりの町はこんなにも人と音が溢れているのかと、姫白は驚いてしまう。
 病院での生活が数ヵ月続いただけなのに、世界に置いていかれていたような気さえする。
 けれど、季節は変わらない。まだまだ冬本番の寒さで、吐く息は白い。


 姫白はまだ入院していたが、今日は外出の許可がおりたので外出をしていた。義手の使い方も慣れていないので、右腕には何もついていないままだった。
 この状態で一人外出するのは初めて、少し不安だったが、今後のためにも何事も経験だと外に出る事を決めた。
 いつもの姫白ならば、そんな風には思わなかったかもしれない。
 けれど、どうしても姫白はこの日、街に出たかった。

 鞄の中に入っている1枚のチケットを取り出す。
 あの日、黒夜から貰った個展のチケット。今日はその個展の最終日なのだ。
 ずっと行くのを迷っていた。
 彼がずっとその個展に居ないことなどわかっている。けれど、もし会ってしまったら。
 それが怖かった。


 あれから、よく黒夜はお見舞いに来てくれていた。
 けれど、彼と目を合わせて話すことも、顔を見ることもなかった。黒夜は姫白が寝ているところにやってきて、そっと病室に花束を置いていくのだ。

 初めて花束が置かれていた日。そこには「すまなかった」と、懐かしい字でそうメッセージが残されていた。すぐにそれが黒夜だとわかった。それから数日後も寝ているときに彼は姫白の部屋にやってきて、花束を置いていく。
 そのうち、彼が病室の前に居ると気配を感じた瞬間に、姫白はソッと目を閉じて、寝たフリをしてしまっていた。

 彼は足音を立てずに病室に入り、そしていつものように花束を置いていく。しばらくすると、また彼はゆっくりと歩き病室を後にするのだ。そんな事が週に1.2度あった。