14話「1歩目の理解」



 「あなたは……姫白さんの…」
 「ここは空気が違うな。現世じゃないのか?2人死者か?」


 初めて桜並木に訪れたというのに、その男は怖がる様子もなくズカスガとこちらへ向かって歩いてくる。
 文月は立ち上がり、彼の対応をしようとするが、文月の前に桜門が立ちふさがった。
 どうやら、自分が話す、という事らしい。


 「驚いたな。俺がここに招待していない者が入ってこれるなんて。ちなみに死人は俺だけだ」
 「じゃあ、その女は人間か。……なんでこんなところにいるんだか。でもまぁ、死人の仲間ってことだろ。変なやつだな……」
 「そんな事っ!」


 文月はその言葉に素早く反応してしまい、声を上げようとした。けれど、それを桜門が止める。文月の方を振り返り、優しく微笑みかける。桜門が身に付けているどの宝石よりも美しい笑みに微笑みかけられると、言葉を失ってしまう。それに、そんな彼が自分を守ろうとしてくれる姿に胸が高鳴ってしまい、声を失ってしまうのだ。


 「おまえ、霊能の力があるな?」
 「……昔から霊感は強い方でね。見ちゃいけないものは沢山見てきたし、それなりに恐ろしい経験になったよ。でも、まぁこんな綺麗な霊なんて見たことはなかったけど」
 「なるほどな。だから、俺の領域に無断で入れたのか。おまえ、名前は?」


 桜門が文月の知らない「領域」という言葉を使っていた。けれど、文月は領域というのがこの桜の並木の事を表しているのだとわかった。
 彼に依頼したい者だけが入れる場所、と桜門が話していたのだから、彼の家のようなものなのだろうと文月は思っていたからだ。