13話「突然の来客」



 身代わり時の終えた桜門と、目の前に居る桜門。その表情は同じ。張り付いたような決まった笑み。
 まだ2回ほどしか会った事がない彼だが、文月はどうも彼の表情が気になってしまった。


 「篝さん、取らせて貰いますね」


 文月は姫白のピアスを両耳から取った。人のピアスを取り外すというのはなかなか経験出来ないことだな、と思いながら彼女のピアスを預かった。


 「これを燃やすと桜門さんの物になるんですか?」
 「このピアスが死んだ事になるみたいで。そうすれば桜門さんも触れられるみたいなんです。今は現世の物は触れないので」
 「そうなんですね……死者の世界というのは信じていましたが、本当に体験することになるなんて。驚きました」
 「私も同じです」


 文月はそう言って、赤いピアスをバックにしまった。どこかで燃やさなければ。と、思いつつも金属は燃やしたらどうなるのかな、と心配になった。


 「姫白。おまえは身代わりの力を使って、腕がなくなった。あの事故で気が動転していたから、すぐに決めたのかもしれない。俺は、助けてもいい理由があるのだと決行したが。……おまえ、後悔はないのか?」
 「もちろん。全くありません。私の考えは間違っていない。そう、今でも胸を張って言えます」


 失ってしまって右腕を見ながら、力強い口調でそういう姫白の表情は、とても清々しいものだった。怪我を受け取った直後は、激しい痛みに襲われたはずだ。もちろん、今でも治療中の苦しみ、そしてこれからの苦労も沢山あるはずだ。それを考えれば辛くないはずはないだろう。
 それでも、彼女はにこやかにそう言えてしまう。
 それぐらいに身代わりの相手は、姫白にとって大切な人なのだろう。