そう言って、姫白は自分の右腕を見つめる。
 白い患者着の右袖腕からは、腕は見えない。姫白の右腕は切断されていたのだ。


 「切断する事になって……やはり身代わりの力を使ってもらってよかったと思っています。あの時、来てくださらなかったら……。そう思うと怖くて仕方がないです」


 失くなった右腕に皆の視線が集まった事に気づいたのか、姫白はそう言葉をもらした。

 姫白、いや、一緒に居た男性と姫白が事故にあった時。怪我をした男性の姿を見て激しく悲しんだ彼女は、強く強く願ったのだろう。「私が代わりにその怪我を負うので、彼を助けてください」と。その願いが届き、桜並木の鈴か鳴った。そう桜門は文月に教えてくれた。

 そして、身代わりの話をした桜門の言葉に、姫白は「お願いしますっ!早く彼を助けてください。代償は何でもお支払いします」と、即決で返事をしたのだ。
 桜門がゆっくりと頷くと、彼の周りに桜が舞い、その桜の花びらが姫白と男を包んだ。ピンクの壁が出来、姫白達の姿は見えなくなった。

 しばらくすると、彼女の悲鳴がその場に響いた。
 ゆっくりと桜の花びらが散っていき、2人が
 文月はその光景を見ることが出来ず、視線を逸らし、グッと口を縛った。

 男の怪我を姫白が受け取ったのだろう。


 「文月、ご苦労様。帰ろう」


 桜門の優しい言葉が頭の上から聞こえる。
 ゆっくりと顔を上げると、そこにはネオンの光りをあびて光る彼の綺麗な笑顔があった。

 文月はその時初めて、桜門が少し怖いと思ってしまったのだった。