姫白は、体を捻りながらゆっくり起き上がろうとしたが、顔が歪んでそのままベットに落ちてしまう。文月は「そのままでいいですよ。それとも起きたいのでしたら、お手伝いします」と、言うと、姫白は「お願いします」と素直に助けを求めた。文月が彼女に手を貸そうと近づいた時だった。
 ふわりと体が持ち上がり、彼女の体がゆっくりと浮いた。桜門と同じように。驚きながらも、恐怖感はないのか、姫白はそのままジッと体を動かさずにいた。
 姫白の体は、無事に起き上がり、ベットの背に背中をつけるように座る事が出来ていた。


 「あ、ありがとうございます」
 「これぐらいで礼など言わなくていい」
 「桜門さん、こんな事も出来るのですね」
 「身代わりの力があるのだ。これぐらい簡単だろ」


 なるほど、その通りだな。と、文月は思った。他社の怪我や病気を他の人にうつすことが出来るのだから、体を浮かすことなど簡単だろう。

 「桜門さん、綴さん。あの時は、彼を助けてくださり、ありがとうございました。本当に感謝しています」


 姫白は深く頭を下げて、お礼を伝えた。
 長い間そうしていると、桜門が声を掛けた。


 「もういい。頭をあげてくれ。俺の仕事は依頼主の願いを叶えること。そして、対価を貰う事だ」
 「対価………」
 「そうだ。そうだな……おまえの耳にあるその赤いピアスでいい」
 「え、このピアス。これでいいんですか?」
 

 姫白は驚いた表情で耳についている、小振りの一粒の赤い宝石のシンプルなピアスに触れた。


 「あぁ。それを燃やせば……、と言っても病院では無理だな。文月……受け取ってくれ」
 「はい………私が取ってもいいですか?」
 「お願いします。今の私では一人でピアスもつけられないので」