11話「神様仏様死人様」



 姫白は父親に育てられた。
 幼い頃に母親を亡くした姫白は、唯一の家族である父が、子育てと家事、そして、仕事をこなして育て上げてくれたのだ。
 街唯一の本屋だった姫白の家は、特別裕福ではなかったかもしれない。けれど、すぐに本が読める環境と、優しい父が姫白は大好きだった。1階が本屋で2階が自宅という事から、帰宅すれば父親が居る事が何よりも幸せだと姫白は思っていた。

 そんな父親が倒れたのは、大学に入る事が決まった高校を卒業した後、春先の事だった。
 倒れた後、約1ヶ月ほどで父は亡くなったのだ。

 大学では経営学を学びながら、部活では新体操を続けるつもりだった。大学の強豪校に進学が決まっていたので、姫白は約束を守れるはずだった。

 けれど、親がいない状態で大学に通うことなど出来るはずもなかった。それに、父が守ってきた店を閉じたくはなかったのだ。
 幸い、親戚がアルバイトで本屋の手伝いをしていてくれたので、仕事内容を教わりながら、必死の思いで店を経営し始めた。
 10代で店長になるなど思いもしなかったことだが、やるしかなかった。
 失敗やミスも多く、お客さんや注文先の店から怒られる事も多かった。やはり無理なのか、と泣く夜が長い間続いた。
 けれど、独学で経営を学び、必死に父親が残したメモなどを見ながら、仕事に明け暮れた。