「親父さん、残念だったな」
 「え………」
 「俺もあの店が好きだったから、なくならなくて嬉しい。姫白は頑張ってるな」
 「なんで………」
 
 何でそれを知っているのか。
 何で約束を破ったことを怒らずに、そんなにも励ますように優しい言葉をくれるのか。

 そう聞きたくても、姫白はうまく声が出せなかった。
 泣きそうになるのを堪えるの精一杯なのだ。
 そんな姫白を切なげな表情で見ていた黒夜は、姫白の肩をポンポンッと優しく叩いた。
 そのせいで体が揺れ、瞳からポロリと涙が落ちてしまう。
 一粒の涙が落ち、アスファルトが濡れた跡がつく。

 姫白はゆっくり顔を上げて、彼の顔を見つめ返した。


 「ごめん……なさい」


 その言葉を言い終わる頃には、涙を我慢する事など出来なかった。
 けれど泣き顔を見られることもなかった。

 姫白は彼のコートごと、黒夜に抱きしめられていた。
 先程よりも彼の香りを感じ、姫白は忘れていた安心という気持ちを感じられたのだった。