「いいから、遠慮するな。ここの方が落ち着いて話せるから、少しここに居ようぜ」


 そういうと、彼はグレーのロングコートを姫白の肩にかけてくれる。その瞬間から彼の香りを感じ、一気に顔が赤くなる。


 「顔赤いな……結構飲んだ?」
 「うん……。それはそうと、黒夜くん人気者だね。でも昔からとっても綺麗な絵を描いていたから、有名になるのも納得だよ」
 「あぁ。姫白も知ってたんだ、ありがと。まぁ、当然の結果だけどな」
 「ふふふ……そういう自身満々なところ昔から変わらないね」
 「影で努力する、暗中模索タイプだからな」
 「自分で言っちゃうところがまたすごいよ」


 クスクスと笑うと、黒夜は姫白の顔を覗き込んだ。そして、先ほどの笑顔から一転して、真剣な表情で姫白の顔を見つめていた。


 「何で連絡先変えたの?」
 「………それは……」
 「大学別になって……なかなか連絡出来なくて、落ち着いた頃に連絡しようとしたら、連絡できなくなってた。高校の友達もほとんど知らなかったから、みんな驚いてたよ」
 「ご、ごめんなさい………」
 

 会えば聞かれると思っていた事を言われてしまい、姫白は動揺してしまう。
 その後に続く言葉が怖かった。
 きっと黒夜に軽蔑される。約束を守らない、努力もしない自分は嫌われてしまう。
 姫白は視線を逸らし、地面を見つめた。
 彼にコートを返して、この場から離れてしまいたい。
 恋人にならなくてもいい。友達のままで居たかった。会わなくても、連絡をとらなくても、昔の友達のままでいれば、黒夜との繋がりは切れないのだから。