冷静を装いつつも、文月が決心をしてケーキの一口サイズをフォークで掬う。そして、「はい………」と消えそうな声で桜門の方へ向けると桜門は満足そうに笑っていた。


 「あーーー……ん。うん!これは上手い。あーー」
 「は、はいっ!」


 ケーキを一口食べた桜門は、とても嬉しそうにそう言うと、またすぐに口を開けた。
 このケーキを食べ終わるまで、これが続くのだと文月は気づき、恥ずかしさで手が震えてしまった。けれど、彼の早いペースはまるで空腹の雛鳥のようで、途中から面白くなってしまった。あっという間に食べ終えた、桜門は「ケーキというものは、本当においしいな。だが、今まで食べたどんな菓子よりこのケーキが1番美味しい」と、微笑んでいた。


 「桜門さん、私の分も食べますか?」
 「それはおまえの分だろ?」
 「私はいつでも食べれるので。どうぞ?」


 文月が自分の分のケーキを取って、彼の目の前に差し出す。
 美味しいと言っていたケーキが目の前にあり、我慢が出来ないのが、桜門の喉がごくりとなった。


 「……どうしても、と言うなら」
 「どうしても、です」
 「では、頂こう」


 そう言って、桜門は文月のケーキもあっという間に食べ終えて、満足したように「ありがとう」と文月にお礼を言ってくれた。