「不思議な人……」 


 文月は、つい思っていたことが口に出てしまった。
 そんな彼の姿を思い出すと、桜門が身に付けていたものにも目がいく。沢山の宝石がついたアクセサリーを身に付けていたが、それが決して嫌らしくもなく、とても神秘的にさえ感じられた。
 身代わり依頼を叶える対価として宝石を受け取っていたと彼は話していた。きっとあの宝石1つ1つが依頼者から貰った対価なのだろう。それを考えると、かなりの人数の願いを叶えてきた事がわかった。


 どんな願いを叶えてきたのだろう。
 身代わりを受けた人は、どんな気持ちだったのだろう。
 そして、桜門はどんなに長い年月を過ごしてきたのだろう。


 文月はそんな事を考えながら、地面を見ると手紙を全て燃えてしまい黒い灰だけが落ちていた。火も消えてしまっている。
 これでこの手紙も死んだ事になる。桜門の元へと届いたはずだ。


 静まり返った実家に戻り、文月はリビングの炬燵に潜り込んだ。冷えた体がじんわりと温まる。しばらくは、ここから出れないな、と文月は思いゴロンと横になる。そして、右手の指輪を見つめる。
 桜門と同じスクエア型のブルーダイヤの指輪だ。それを見ているうちに文月はある祖母の言葉を思い出した。


 
 『今、私がしている指輪は必ず私と一緒に焼いて頂戴ね。約束したのだから。だから、残りはあなたにあげる。文月も青が似合うわ。笑った顔があの人にそっくりだもの』


 祖母が言った、あの人というのは桜門の事だったのだろうか。文月は祖父の事だと思っていたが、話の意味を理解してから考えると桜門としか思えない。