そう思った瞬間に、文月の体は動いてきた。
 離れそうになった彼の手をギュッと掴んだ。
 指輪よりも冷たい彼の手。その手を自分から掴むと、先ほどの風はまた穏やかなものになった。
 けれど、目の前の彼はとても驚いた顔をし、目をまんまるにさせ文月を見ていた。


 「おまえ………どうした?」
 「お礼をさせてください!あの、対価でもいいです。桜門さんにお礼をさせて欲しいんです」
 「……礼だと?」


 桜門は文月を不思議そうに見つめながら、そう質問していた。
 けれど、咄嗟に手を掴み、桜門から離れないようにした文月が、何とか言い訳を見つけただけだったので、桜門に問われると、たじろんでしまう。
 それに、何故桜門と離れたくないと思ったのか。文月は自分自身の気持ちと行動がわからなかった。


 「えっと………。そのー………、おばあちゃんの事を教えて貰ったり、身代わりの事を教えてもらったり……。それに、この世界の招待してもらったので!何か、お礼をしたいなー……なんて」


 何とかそれっぽい理由を見つけて、そう伝えながら、恐る恐る桜門の方を見上げた。
 と、彼はポカンとした表情の後、ニヤリと笑い、文月が握っていた手を両手で包み返した。
 そして、上機嫌な様子で笑っていた。


 「文月。おまえ、俺と離れたくないのだな」
 「………えっ!?な、何でそんな事を………!!?」
 「わかった。おまえに俺の身代わり依頼の助手をして貰う事にする」
 

 自分の予想外の行動は、予想外の結果を生む。
 それを文月は学んだ瞬間だった。