桜門はそう言うと、文月と同じ右手の薬指についた指輪を文月に見せ、にこやかに笑った。
 確かにそれは同じ色、同じ形で同じデザインの指輪があった。
 文月は混乱のあまり、彼によろよろと近づき文月の手を見つめた。


 「な………な、何で桜門さんがおばあちゃんの指輪持ってるんですか!?」


 驚きすぎて、大きめな声が出てしまったがそんな事を気にしている余裕などなかった。文月は彼の手を掴み、指輪をまじまじと見るが、文月と同じデザインの指輪だった。サイズは少し大きめなので、祖父のものだった指輪だろう。そして、文月が確かに祖母が亡くなった時に棺に入れた指輪だった。
 それなのに何故桜門が持っているのか。
 文月は、混乱したまま彼を見つめた。どういう事なのか、詳しく知りたかった。

 桜門はクスクスと笑いながら、「ゆっくり説明する」と言い文月が落ち着くのを待ってくれている様子だった。文月はコクコクと頷きつつ、小さく息を吐いた。
 そんな様子を見守った桜門は、文月の興奮が少し落ち着いたのを見てから話しをしてくれた。


 「ここは死の世界だ。そして、俺は死人だ。文月は死人ではないが俺の依頼主……ではないが、会いたいと思ってきてくれた人間だな。そういう者には触れられる。死人と関わりを持った生者。しかし、物は違う。おまえの元から離れてしまえば、生きている物になり、俺は触れなくなるのだ」
 「……だから、私には触れられても手紙だけでは触れない」
 「そう言うことだ。だから、燃やす、のだ。燃やす事でその物は死んだという事になる。この国での死者を弔う方法だな」
 「あ……だから、おばあちゃんは手紙を燃やしていたの?」


 そこまで桜門の話を聞いて、文月はハッとした。父が話していた「祖母が庭で手紙を燃やしていた」という話を思い出したのだ。
 それには理由があったのだ。
 桜門へ手紙を届けるという理由が。