「こういう事だ。おまえから離れたものは触れない」
 「で、でも……私には触れられたのに……、あっ!」


 そこで顔が真っ青になってしまう。
 もしかして、と思ってしまったのだ。
 そんな様子の文月を見て、桜門は楽しそうに笑った。


 「安心しろ。おまえは死んでない」
 「………そ、そうですよね。でも、どうして………」
 「俺の依頼者はここに来れる。その者は俺に触れることが出来る。それと、もう1つは死の世界に1度足を踏み入れたことがある者もだ。おまえは両方だな」


 文月は祖母が病気を身代わりにしてくれる前に生死をさまよった事があった。
 その時の事を言っているのだろうと、文月はすぐに理解した。


 「それにしても、この手紙を俺が貰っていいのか?みき子の形見だろ?」


 桜の花びらが敷き詰められた地面に落ちた手紙を見ながらそういう桜門に、文月は慌てて手紙を拾いながら返事をする。


 「私にはこの指輪があるので大丈夫です。祖母が大切にしていた指輪を身に付けているので」


 右手の薬指で光るブルーダイヤの指輪。
 祖母から貰った、祖父とお揃いのものだ。祖父が亡くなった後に、それを身に付けていた祖母のお揃いのブルーダイヤは、亡くなる少し前に、文月がこっそり預かっていた。祖母はそれを絶対に焼いてほしいと言い続けていたので、文月に託したのだ。死んだ後に、遺言を聞かずに文月の両親に取られてしまうと思ったのだろう。文月もそれを恐れ、火葬の前にこっそりと花にまぎれて棺に入れたのだ。
 だから、天国で祖母がその指輪をしているのだろう。文月と同じ青いダイヤのついた指輪を。
 そう、ずっと思っていた。
 が、その考えは全くもって違っていたようだ。


 「あぁ。その青い石がついた指輪。俺とお揃いだな」