「文月。そろそろ起きろ」
 「……っっ………!!」


 聞き慣れない声。
 そのはずなのに、その声を無視しようとはできずに、文月は目を覚ます。
 すると、そこには先程出会ったばかりの桜門がこちらの覗き込んでいた。
 どうやら、泣きつかれて彼の腕の中で寝てしまったようだ。恥ずかしさと情けなさが押し寄せてくる。けれど、1番に感じたことが自然と言葉に出てきていた。


 「桜門さん………ありがとうございました」

 

 おばあちゃんがやった身代わり。
 その方法が正しいことなのかは、きっと考えてもわからない。
 けれど、わかっているのはおばあちゃんはもう死んでしまったという事。
 そして、おばあちゃんは自分を深く愛して、守ってくれたという事だ。

 それだけは、本当なのだ。

 ならば、文月がやらなければならない事は1つだけ。


 生きること。
 無償の愛を探すこと。


 それだけなのだ。
 

 文月はそう言うと、自然と笑みがこぼれていた。辛くても寂しくても笑わなければいけない。
 そう思えたのは、きっと笑顔のままの桜門を見たからかもしれない。


 桜門は、「あぁ」と返事をし、とても嬉しそうに目を細めながら、長い銀色の睫毛を動かし微笑んだのだった。