「文月が死んだら、治療費と言って集められる募金のお金が入ってこなくなるわ。集めたお金で私たちが暮らしていけてるんだから」
 「見舞いに専念するためにって、仕事止められたしな」
 「苦しんでていいから、生きてて貰わなきゃ困るのよ。一番安い薬で治療してきたけど、少し高額でも効く薬にしましょう」
 「あぁ。医者に頼んでおこう。また、よくなったら戻せばいいからな。死んでしまっては意味がない」



 何を言っているの?
 仕事をしてない?
 お金のために自分は生かされている?
 苦しんでも生きていてほしいのは、大切だからじゃない。
 お金のため。

 文月は、両親の考えをその時に初めて知った。文月が生死をさまよっている時に、母が怒鳴っていたのは、文月に「死んで欲しくない」のではなく「死なれては困る」だったのだろう。


 文月はぐらんっと体が歪んだように感じた。目を瞑っているのに激しい目眩に襲われたのだ。気持ち悪い。吐きそうだ。

 怒りでも悲しみも感じない。


 気持ち悪い。


 目を覚まさない文月を待つのに飽きた両親は、その後すぐに病室から去っていった。
 ドアが閉まった瞬間、文月はベットから起き上がり気持ち悪さから、桶を抱えて吐いてしまった。

 あぁ、薬が無駄になった。
 そう思いつつも、文月は生きることがとても辛くなった。
 薬をの飲まなくても死ねない。
 どうすればいいのだろうか。
 

 体が冷たい。
 寒い。
 気持ち悪い。

 ずっと夢の中で過ごしていたい。




 そう文月は思い、目を閉じた。