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 夢だとわかっている。
 けれど、それを思い出してしまうと、胸が苦しくなる。


 幼い頃は、入院が怖くて仕方がなかった。
 一人の空間、痛い治療や、苦しい日常。苦い薬に厳しい看護婦さん。遊べない事や友達もいない、ただ窓の景色を眺めながら咳を繰り返す時間。夜のトイレだって怖かった。
 だから、両親に少しでも居て欲しかった。
 2、3週間に1度ぐらいしか見舞いに来なかった両親に1度だけ、「明日も来て」と頼んだことがあった。
 すると、母親は文月を睨み付け、父親は呆れ顔を見せた。


 「おまえがこんな病気になるから仕事をしなければいけないんだろ!この厄介者っ!!」
 「………ここに居るのもお金がかかるんだ。苦しくてもいいなら退院すればいい」


 そう冷たく突き放されてから、文月は2度とそんな事を言わないと誓った。
 自分が居るから、両親は大変なのだ。自分冴え生まれなかったら、病気を持っていなかったら、苦しく生活を両親にさせることもなかったのだ。
 そう強く自分をせめた。

 だから、こっそり薬を飲む振りをして、捨ててしまい早く死のうと思った。
 が、それからは死んだ方がいいと思えるほど苦しい日々だった。

 もしかしたら、死ぬ一歩手前だったのかもしれない。意識が朦朧として、体を動かす事も出来ず、体には沢山の管が繋がれていた。
 あぁ、やっと死ねるんだな……。これで、お母さんもお父さんも苦しい生活や辛い仕事をしなくてすむのだろう。よかった。そう思っていた。

 その時だった。
 体を激しく揺すり、文月に向かって怒鳴っている母親が居た。
 あぁ、最後は泣いてくれるんだ。少しは大切に思ってくれていたんだ。悲しいと思ってくれているのだ。そう思えて、文月は嬉しかった。