「文月。俺やみき子のことを許してはくれないか」


 ずるい言い方だ。

 祖母も桜門も、文月を守るために思った事なのだろう。
 桜門は何も言わないが、きっと祖母とは沢山話し合ったはずだ。父が手紙を毎晩書いては燃やしていた、と話していたのをは、きっと祖母と桜門がやり取りをする方法だったのだろう。
 桜門と祖母の優しさが伝わってくる。
 怒りたいわけじゃない。

 苦しさから解放してくれたという事実は、文月にとって何よりも幸せだった事だったはずだ。けれど、それよりも自分の事をそんな風に文字通り身を呈してまで守ろうとしてくれた。


 それが、幸せ者だと思うのだ。


 寝込んでばかりで、祖母の役に立つ事なんてこれっぽっちもなかったはずだ。
 けれど、祖母は愛してくれた。
 命をかけてまで、家族の愛を伝えようとしてくれたのだ。


 「おばあちゃん………ごめんね……………ありがとう………」


 大きな葛藤と愛のぬくもりを感じ、文月は感情がぐじゃぐじゃになった。
 何が正解で、何が悪いのかなんて、もうわかるはずもなかった。

 けれど、祖母が自分を愛してくれた事だけは、事実なのだ。
 身代わりという形が、祖母が選んだ愛の形だという事。


 文月は思わず、隣に座る彼の胸に泣きついてしまう。
 冷たい体温に心臓の音がしない、死人の体。

 それでも、優しいぬくもりがあるように、文月は感じられ、涙が枯れるほどに泣いたのだった。