初めて知る情報に、文月は驚いてしまった。彼が言うに金で医者を味方にしてしまっていたようだ。医者が嘘の報告をするとは思えないので、支援者はかなり信用していたはずだ。


 「そうじゃなかったら、こんな嘘はバレるに決まっているだろうな」
 「………そうか。そうですよね………。じゃあ、それを祖母は知っていて」
 「知っていて何も出来ないことを苦しんでいた。両親にも医者にも何度も話したらしいが、聞く耳も持たなかった、と。むしろ、これが世間にバレてしまえば、募金は集まらずに文月が助かる確率は低くなると、脅されていたようだな」


 文月の知らない間に、もっと酷い事をされていた。自分の事はいいにしても、守ってくれようとした祖母を脅すようか事までしていた事に、文月は唖然としてしまう。
 祖父にとっては、自分の母親なのに、どうしてそんな事が出来るのだろうか、と思ってしまう。金の力が両親を変えてしまったのか、自分が病気を持って生まれてきてしまったからなのか。
 いずれにせよ、文月の想像よりも祖母は苦しんでいた。それを、桜門から知らされ、苦しさと切なさで体が小刻みに震えてしまう。


 「そんな両親に育てられた文月は、両親の愛を知らないはず。自分がどんなに愛しても、両親から貰えないのは可愛そうだ、と。だから、自分が本当に文月をどんな事をしても守りたい存在なのだ、と知って欲しかったそうだ」
 「………そんな事しなくても、おばあちゃんが愛してくれていたのはわかっていたのにな。私を愛してくれた唯一の人なんだから」


 祖母の思いを今さら知って、祖母にその言葉を伝えたくても、もう直接会うことは出来ない。
 大切な人だからこそ、自分の変わりに死なせたくない。そう文月は思ってしまう。が、それも、もう遅い。


 文月の言葉を聞いた後、桜門はゆっくりと頷いた。それも全て知っている。そんな雰囲気だった。

 そして、文月の目をしっかり見つめ、話し始めた。彼の瞳は真っ黒だったが、桜の色がうつっており、とても幻想的な美しさを見せている。その瞳から目を離すことなど出来るはずもなく、文月はそのまま彼の言葉を待った。