「おまえ……俺の話を聞いていたか?」
「き、聞いてましたっ!どちらも聞きたいです」
「なるほど。普段は依頼主しか話さないと決めているが、身代わりをした人間が訪れるのは初めてだ。特別に教えてやろう」
「お、お願いします」
緊張する文月をよそに、彼はとても楽しそうだった。そんな文月を今度は桜門がジッと見つめてきた。口元は笑みを浮かべているが、目元は真剣なもので、文月はまたドキッとしてしまう。何故かれがそんな表情で見つめてきたのかわからずに困惑してしまう。文月が我慢出来ずに視線を逸らすと、桜門はフッと目を細めた。
「では話そうか。俺は普通の死人ではなく、特別な死人だ」
何か満足したように話し出した桜門に、文月は首を傾げつつ、彼の話を聞いた。何が特別なのかわからないが、桜門はとても得意気だった。そして、期待に満ちた目をこちらを見ているので、文月は質問するしかなくなった。
「そ、それはどんな特別なんですか?」
「気になるだろう?人間は死んだでも力を授かる事もなく、死の国へと向かうらしい。まぁ、成仏しないでこの人間の住む世界に残ってしまう者もいるが」
「桜門様は違うんですか?」
「まぁ、死人である事には変わりはない。人間であったが死んだ。だが、死の世界というのは知らない」
「………死の世界」
「俺は、ここで力を授かった。人間の願いを叶える。身代わりの力だ」
「人間の願いを叶えるって神様みたいですね……」
文月はそんな事を自然に思った。
が、桜門はそれを優しく否定した。彼はいつも笑顔だが、その笑みの種類は違った。今は、少し悲しげなものに文月は見えた。



