白銀の身代わりの依頼であり、それをしたのは桜門。間違ってはいない。
 けれど、残りわずかだったとしても、自分の生かすために白銀は自分の命を使ったとは、彼女に伝える事は出来なかった。


 「ぜひ、桜門様にお会いして直接お礼を伝えたいです。桜門様にお会いできますでしょうか?」
 「桜門さんは遠い所にいるのだ。だから、なかなか会えないの。ごめんなさい」


 もしかしたら、文月ではないツボミならば彼は会ってくれるかもしれない。
 けれど、それを教えられるほど優しくなれなかった。
 今でも、桜門は文月の知らないところで、知らない人を助けているのだろう。そう思うと、とても悔しくて切なくなるのだ。
 本当だったら自分が引き受けていた依頼。もう終わるはずだった仕事を、桜門は今でもこなしていると心が痛む。
 そして、自分は会う事が出来ないのに誰かは桜門に会えている。それが悔しかった。
 

 桜門に会いたい。
 お願いだから、会いに来てほしい。


 きっと、彼はずっと文月を見守っていてくれているのだろう。
 200年続けていたように。そして、文月が産まれた時からずっと傍にいてくれたように。


 「そうですか。それは残念です」


 ツボミは悲しい表情で視線を下に向ける。こういう些細なしぐさが、本当の人間のようだなと思う。特にツボミはそれが突飛しているのだ。その理由は白銀が関係しているのだろうなと文月は感じていた。


 「では文月様も、桜門様に早くお会いできるといいですね」
 「そう、だね」


 ツボミは文月の様子から何かを感じとったのだろうか。いや、人間のデータから文月が桜門に会いたがっているとシステムで理解したのかもしれない。
 けれど、その言葉が今の文月にとってはとても嬉しかった。