「はい。桜門様の事はマスターから伺っております。楽しそうにお話ししてくださいました」


 そう話すツボミはとても楽しそうだった。いつもより表情が明るいのはマスターである白銀の話をしたせいなのだろうか。
 この日、文月はツボミと話す機会を貰った。文月も彼女と話をしたかったが、どうやらツボミの要望だったらしい。人間に忠実なドールが、自分から要望を言うのは珍しい事なので、それを叶えてあげたかったようで、2人きりの時間を貰ったのだ。

 ツボミは白銀が亡くなったと知ると、とても悲しそうな表情を見せ、しばらく動かなくなったそうだ。もちろん、システムのエラーではない。彼女が悲しみから、戸惑ったのではないか、と社員のみんなは話していた。文月も同じように思った。そして、ツボミは「私の方が早く壊れてなくなると思っていましたが、マスターは私を守って亡くなったのですね。………大切な人がいなくなって泣いてしまう人間の喪失感というものは……経験したくなかったです。これは、乗り越えられるものなのでしょうか?」と話して、皆を驚かせ、そして泣かせたのだった。

 けれど、少し時間が経ち、文月がツボミに桜門の事を尋ねると、ツボミは笑顔でそう答えたのだ。白銀の話をするのが嬉しいようだった。


 「桜門の事は、なんて聞いていたの?」
 「マスターから、私を助けてくれる人だと聞いています。私は、マスターがいないと動くことが出来ませんでしたが、マスターがいなくなっても動けるようになりました。ですので、桜門様が助けてくれたのだと思っています。そうなのでしょうか?」
 「えぇ。そうだよ」