エピローグ




 「おはようございます、文月様」
 「おはよう、ツボミ」



 文月が白銀が残した会社に入ると、すぐにツボミが出迎えて挨拶をしてくれる。
 今日もスミレが朝一番にツボミのメンテナンスをしてくれたのだろう。ツボミはイキイキと動き、すぐに文月のためにコーヒーを淹れようと給湯室へと向かっていた。
 そんな彼女を笑顔で見送りながら、文月は自分のデスクへ向かい椅子に腰を下ろした。






 生きて入れば、毎日同じように朝がくる。そして、日々の生活は少しずつ変化していく。


 桜門がいなくなってから、2か月が過ぎようとしている。肌をなぞる風は冬から春に代わり、ニュースでは桜の開花時期の話題が出るようになっていた。けれど、今年は桜など見たいと思わなかった。いや、桜は見たいかもしれない。けれど、その桜の景色はこの世では見る事が出来ないのだ。


 
 白銀の葬式に参列した文月は、その時に動くツボミと初めて会った。その時はまだ会話は出来なかったが、白銀が愛した彼女が動けていたのを見て感動したのだ。白銀の思いが彼女に伝わったのだ、そう思えてならなかった。
 そしてその際、病院で話しをしていた社員の人達にも再会する事が出来た。その時に、何故か文月が仕事を辞めたという話になった。そうすると、「うちで働きませんか?事務職で人材を探していたので、白銀さんの恩人の方でドールを好きでいらっしゃるようなので、ぜひお願いしたいです」と、入社を勧めてくれたのだ。そこからはとんとんと話が進み、文月はドール制作会社へで働く事になったのだった。
 その縁は全て桜門のおかげのような気がして、文月は仕事をしながらもいつも感謝する思いだった。