「私は大丈夫ですよ」
「………文月。それは……」
「私は本来、死ぬ運命でした。それを助けてくれたのは、おばあちゃんと桜門です。子どもの頃に死んでしまうはずだったけど、大人になれた。それからはいろんな生活、出会い、好きなものを知る事が出来たから、満足してるんでふ。それに、最後に大切な人も出来たし」
「…………」
「………だから、桜門さんの願いを叶えたいって思うんです」
「………本当にいいのか?おまえは死ぬことになるんだぞ」
「はい。それは前にもしっかり聞きましたよ。…………でもちょっと怖いかな。痛くはない?」
「………それは大丈夫だが………」
堂々としている文月だったが、逆に願いが叶うはずなのに桜門が戸惑っているようだった。
そんな彼を見ていると、涙は止まり笑みが浮かんでくる。
この人は本当に優しい人なのだなと、改めてわかったからだ。
桜門が願いを叶えるだけのために文月に近づいたのならば、こんな話をせずに無理やりにでも身代わりの仕事をさせてしまえばいいはずだ。文月が理由を聞いたからといって、本当の事を話す理由もないはずだ。それなのに、文月に身代わりの仕事の話も、過去の経緯さえも話してしまうのだ。
これで怖くなった文月が断る可能性だってあったはずだ。
それに、文月が話を聞いたうえで取引を受けると言うと、迷いさえ見えるのだ。
そんな彼がとても愛おしく、好きになってよかったと思えた。
死人であっても好きになっていい。そう思えるぐらいに、文月は桜門が好きになっているようだった。
「………ほら。少し怖いけど、決心したんですから。私の気持ちが変わる前に、取引しちゃいましょう」
「………いいのか?」
「はい。あ、でも怖いから手を握ってて欲しいです。それぐらい甘えてもいいですか?」
「あぁ………」
桜門は文月に近づき、ゆっくりと両手を掴み、包むように手を握ってくれた。



