今は夜深い時間。
 扉が閉まったままだったが、海里はそのまま初芽の部屋の中に入る。
 そこには初芽が部屋の真ん中で茫然と座っていた。
 彼女が座っているのは布団ではなく、豪華な座布団の上だった。初芽が気に入っていると言っていた薄黄色の着物を着ていた。燈台のぼんやりとした光の中でも、彼女の顔色が良く、全く呼吸が苦しそうではないのがよくわかった。だが、彼女の目元が赤い。それだけが気になったが、初芽の病気は約束通りなくなったのだとわかった。


 そして、もう1つ。桜姫は海里との約束をしっかりと果たしてくれていた。

 色とりどりの色のついた、透明な琥珀が沢山置かれていたのだ。燈台の光を受けてキラキラと輝いている。それを初芽はボーッと見つめていた。


 「………初芽……」


 つい声が出てしまう。
 彼女に気づかれる。そう思ったが、初芽は変わらずに虚ろな目をするだけだった。
 初芽には海里の声は聞こえないのだ。桜門という死人の声はそれすらも届かない。
 自然と手を伸ばした腕の動きも思わず止めてしまった。