33話「忘れられない、ぬくもり」





 それからの事はあまりよく覚えていない。
 気づくと、海里はあの桜姫が居た桜並木の花びらの絨毯の上に眠っていた。キョロキョロと辺りを見ると、少し変わっているところがあるのがわかる。桜姫が地面に放置していた沢山の金。それが忽然と消えていた。もちろん、桜姫もいない。そして、変わりに増えたものもあった。とても大きな桜の木だった。それは現世では見たこ
 ともなかったが、何故か海里にはわかった。この桜の木は自分と一緒に燃やされ、ここに来たという事を。


 海里はゆっくりと立ち上がり、その桜の木に触れようとした。

 「え………?」


 そこで気づいたのだ。
 視線の高さがいつもと違う事を。
 自分の体を見る。すると、手は大きく足は長くなっている。着ている服はボロボロではなくなり、立派な着物になっていた。


 「………大人になってる?なんだよ、死ぬと見た目も変えられるのか………」


 自分で独り言を言って気づく。
 桜姫との取引は、夢でも幻でもなく本当の事だったのだ、と。

 自分は桜門としてこの桜並木で過ごしていく。そして、身代わり依頼をこなして生きていく。
 それを実感してなのか、体が震え始めた。自分の体を抱きしめながら、海里はその場にうずくまる。

 この取引は間違えだったのではないか。
 あんなにも一人で生きることが嫌だったはずなのに。
 また、一人きりになってしまった。これなら人間と会えたとしても、温もりを知っても、その人達は誰もが、例外なく自分を置いて死んでしまうのだから。


 「…………俺、何やってるんだ…………」


 大人の体になったとしても、すぐに大人になれるわけではない。子どものまま大人の姿になった海里は涙を浮かべた。


 と、その時だった。


 「……海里。………海里でしょう?」