「のう、海里よ。私ともう1つ取引をしないか?」
 「取引?」
 「そうさ。なに、簡単な事だよ。私のこの身代わりの仕事を変わってくれないか?」
 「身代わりの仕事………?」


 突拍子もない事を突然提案された海里は、理解が出来なかった。
 桜姫がやっている身代わり依頼を海里が代わりにする、という事らしいがピンとこない。
 彼女の身代わりの仕事を見たこともないのだから当たり前の話だ。


 「私は死人。身代わり依頼を受ける死人は選ばれしものだ。死んだ後も現世に残り、生きている人からの依頼を受けて過ごしていく。人間との関わりは依頼のみだが、現世の人間を見守る事は出来る」
 「………ぇ………」
 「そうだ。おまえが守った女がどう生きていくのか。身代わりで死んだおまえは見ることができないが、私の仕事を変われば見ることが出来る。その仕事を引き受けてくれるのであれば、お金は必要なしにしよう。……悪い話ではないだろう?」


 彼女が話している事が本当ならば、それはとても魅力的な話だった。
 海里だって死にたくはない。ずっと初芽と一緒に過ごしていきたかった。隣で笑い会いたかった。けれど、それが1人しか生きられない定めならば、彼女に生きて欲しかった。
 彼女が元気になった姿を見てみたい。どんな時に感動して、笑って、悲しんで、幸せを掴んでいくのか。見守っていきたい。
 海里はそんな自分の姿を想像して、それを強く望んでいるのがわかった。

 初芽の命を助けられて、しかも彼女を近くで見守れる。
 海里の答えはすぐに決まっていた。