意外にも簡単に引き受けてくれた事に驚きながらも、彼女が助かる事に安堵する。が、続けて出た桜姫の言葉で、また落胆することになる。

 「では、対価として金を貰おうか。そなたの持っている金を全て私に渡してもらおう」
 「…………こ、これが全部だけど………」


 懐に隠していた金が入っていた布袋を取り出して、桜姫の掌に逆さにして金を出した。
 が、その金の量を見て、彼女はため息をついた。

 「全くもって足りんな」
 「…………あとどれぐらい必要なんだ?」
 「これの100倍だなおまえが10年働いても足りないだろうよ」
 「そ、そんな………」


 海里は愕然とした。
 やはりここでも金が必要なのだ。
 せっかく彼女を助けられる可能性が、目の前で潰えてしまう。
 それに焦りを覚えた。だが、海里にそんな大金を準備を出来るはずもないのだ。初芽の父親に頼んだとしても、身代わりで彼女の命を助けるから金を貸してほしいと言われても、到底信じないだろう。それに海里が助けるために命を落としてしまえば、その大金を返すことも出来なくなる。

 どう頑張っても無理だ。
 海里の顔は真っ青に変わっていく。
 自分は初芽を救えない。
 それが悔しくて仕方がない。

 強く手を握りしめて、悔しさを堪えた。
 今は医者の力を信じ、春になるまでに初芽が頑張ってくれる事だけを神に祈るしか海里には出来ない。