32話「桜姫と桜門」


 
 その妖しい死人の女は自らを「桜姫」と名乗った。やはり姫様だったのかと海里が言うと、その女はクスクスと笑った。


 「海里よ。何故、その女を助けたい?」
 「………大切だから。俺に優しくしてくれた人間はあいつだけだった。あいつだけが仕事を教えてくれて、人間が温かいのだと教えてくれたんだ。それに、俺は悪いことばっかりしてきたけど、自由に人間の世界を見ることは出来たから……あいつにも自由に歩いて欲しいんだ」
 「人間というか、海里も人間だろうに。おまえは本当に変わっているね」
 「………人間になれたのは最近だよ」


 そう言うと海里は苦笑した。
 人間のような生活をし始めたのも、人間の食べ物を初めて食べたのも、稼ぎ方を知ったのもつい最近だった。それまでは人間は敵だと思っていたし、人間にはなれないと思っていた。
 銀髪のおかげて化け物扱いされてきたので当然の事だ。
 人間にしてくれたのは、初芽のおかげなのだ。


 「おまえがその女が大切なのはわかった。では、身代わり依頼を受けることにしよう」
 「お、お願いします」