「ここに来たという事は、身代わり依頼が目的だろう。銀色の子は、誰を助けたいのだ?」
 「助けてくれるの?初芽を助けてほしい!」
 「……なるほど、初芽という女を助けたいのか。幼子だと思っていたが、立派な大人だのう」
 「………助けてくれるの?」
 「私は神様ではないただの死人だ。だが、身代わりとして病や怪我を移す事が出来る」
 「じゃあっ………!」



 ここに来たのはやはり招かれたのだ。初芽を守るために、強く願ったから彼女を助けて貰えるのだ。
 助かった。彼女は死ななくて済む。逸る気持ちのままその身代わりという力をお願いしようとした。が、その死人だという女性はニヤリと含みのある笑みを見てた。


 「名は何という?」
 「海里」
 「海里よ。初芽という女は大切なのだろう?」
 「うん。そうだけど……」
 

 女はゆっくりと裸足の足でこちらに向かってくる。そのたびに金貨を踏んで、カチャカチャと音が鳴る。そして、海里の目の前までくると、彼女は海里の頬に手を添えた。驚くほどに冷たい指先。海里は思わず目を見開く。


 「おまえは、初芽の代わりに死ねるか?」
 

 その言葉は驚くべきものではなかった。
 もとから彼女を助けるために死んでもいいと思っていたのだから。
 何かを頼む時には、代償が必要なのだ。それは、この世界で学んだことなのだから。

 海里はすぐに「死ねる」と返事をすると、女はとても満足そうに笑うと、海里の髪に小さく唇を寄せた。そして耳元で「おまえはいい男だね」と、甘く囁いたのだった。