☆☆☆



 文月の日常は真っ白な部屋から始まり、真っ白な服を着た女性に起こされる事から始まる。


 「おはよう、文月ちゃん。今日の気分はどう?」


 同じ言葉に、同じ張り付いた作り笑顔。
 それにうんざりしつつ「最悪です」と答えると、看護師の女性は苦い表情に変わった。


 「お薬を変えたから副作用で気持ち悪くなってしまうのかな。お医者さんに伝えておくね。朝御飯の後に昨日と同じ薬を飲んでね。今日は、外に散歩には行く?」
 「おばあちゃんが来たら行く」
 「わかったわ」


 そういうと、看護師はそのまま去っていく。
 ドアが閉まり、彼女の足音が遠ざかったのを確認した後。我慢していた咳を吐き出すように続けた。


 「ごほっ……ごほっ………。新しい薬、効かないじゃない。気持ち悪くなるだけなって……」


 咳の症状が酷くなり文月は寝れない日々を送っていた。入院してから、良くなる事はほとんどなかった。その度に薬を変えられ、変える度に副作用にも苦しんだ。
 また効かないとわかればまた苦しい薬に変えられる。中学生にもなればわかる事だった。そのために、看護師や医者の前では元気を装うようにしていたのだ。


 「朝食まで寝よう……」


 まだ、朝食はまだ届かない。
 その短い時間でも起きているのが辛く、文月は咳をしながら目を瞑った。昨夜も咳が酷く寝れなかったので、すぐに寝る事か出来た。
 寝てしまえば、苦しくない。
 文月は寝る時が2番目に好きな時間だった。