31話「依頼」



 人間は自分の死に際を察知するというが、それは本当なのだとこの時に知った。
 あと半年だと聞いていた初芽の容態が、その日の夜に急変したのだ。
 それを知ったのは、海里が仕事をしている時だった。
 
 海里は初芽との約束を守るために、これから積極的に仕事をこなしてお金を貯めようと思っていた。彼女に飴を贈っただけだが、とても喜んでくれたのだ。また、何か彼女へ贈り物をしたいと考えていた。
 それに死ぬことではなく、春への楽しみを少しでも感じてくれていたようだった。それならその日は思いきり贅沢をしよう。そのためには、自分も頑張るしかない。彼女が少しでも楽しんでくれるように、と。




 その日はお寺での雪かきだった。
 昨晩、夜遅くに雪を降り積もったので、お寺内の道やお墓周辺を丁寧に雪かきをしていた。
 すると、雪道をこちらに向かって駆けてくる女性がいた。海里は不思議に思いながらも、自分の知り合いではないことから、仕事に集中しようとした。


 「す、すみません。あなたが海里さんですか?」
 「え、あ、はい……」
 「私、初芽お嬢様の女中の者でございます」
 「え……初芽の………」



 海里は驚いて、持っていた木製の「こしき」に力が入ってしまう。
 そしてそれを握りしめたまま、その女性の元に駆け寄った。ずっと走ってきたのか、その女性は息が上がっており、口からは白い息を吐き続けていた。