29話「鋭い言葉」

 


 それからと言うもの、海里は仕事をこなす毎日となった。
 初芽に教えられたように近くの寺へと向かう。一瞬銀色の髪には驚いた表情を見せていたが、それでも目元にシワを浮かべながら初老の住職は微笑んだ。
 そして、檀家から仕事をもらい、海里に紹介してくれたのだ。
 食事処の皿洗いや農家の手伝い、寺の掃除など様々な仕事を受けた。初めは怪訝そうにしていた依頼主も真面目に働く海里を見てから、少しずつ受け入れ始めていた。「住職が面倒を見ている」という噂が近くの村や町で囁かれるようになり、少しずつ海里への対応も変わってきた。
 お金を持っていても食材を買わせてくれない人もいたし、無下に意地悪な事を言ってくる人も多かったが、今ではほとんどがなくなっていた。
 お金を持っているのなら悪さもしない。住職が面倒をみているなら、災いではないのかもしれない。人々はそのように考えたようだった。
 そのため、日々の食事で困る事はなくなった。
 けれど、初芽の屋敷に行く回数は減ってしまったのが、海里にとっては残念な事でもあった。


 そんなある日、仕事中、に初芽が住む屋敷前を通った。すると、コンコンッという咳が続き、噎せ込む声がした。それが初芽だとすぐにわかった。


 「…………初芽」