「………これが俺の髪?」
 「そうよ!こんなに綺麗なのに、これが災い起こすなんてありえないわ。とっても素敵よ。神様の髪もきっとこんな色なんじゃないかって思ってしまうぐらい、神秘的だわ」
 「………」



 自分に誇るものなんて何もなかった。

 細くて小さな体。大人には勝てない弱い体。字だって読めない。人に悪口を言われれば、気にしないふりをして、影では苦しくて涙する事もある。
 悪いことだってわかっているのに、スリや窃盗を繰り返す。死んだら地獄に落ちるんだろう、と思っているぐらいだ。
 そして、銀髪。



 そのはずだった。
 けれど、鏡に映る自分の姿を見て、鼓動が大きくなったのだ。
 これは特別なのではないか、と。
 初芽だけが褒めてくれるのかもしれない、けれどそれでもよかった。
 自分が心を許した彼女が「綺麗」だと言ってくれる。それが何よりも誇らしかった。


 「さぁ、海里。きっとお寺様も仕事を紹介してくださるわ。頑張ってね」


 鏡越しに微笑みながらそういう初芽に背中を押され、海里は挑戦してみようという気持ちが大きくなっていた。

 その時は初めての「特別」を知り、浮かれていたのかもしれない。
 屋敷の誰かが帰ってきて、2人の事を隠れて見ている視線に、海里は全く気付かなかったのだった。