文月はどうにか声を絞り出して、そう発した。少し震えていたからもしれないが、何とな相手に伝わるほどの音量だった。


 「いかにも。おまえは何者だ?先程、みき子と呼んでいたが、知り合いか?」


 耳元で聞いた低くもゆったりとした口調。そして意思が強そうなはっきりとした声。その声で語られたら、嫌でも耳に入り集中してしまう。そんな不思議な声の音だった。
 桜門だという男は、目を細目て文月を見つめた。そして、しばらくした後に目を大きくした。ように感じたが、すぐに見据える瞳に変わった。
 文月は不思議に思いながらも、返事をしようとした。が、その前に桜門が声を続けた。


 「みき子の孫か?」
 「はい……。綴文月と言います」
 「なるほど………あの時の。……文月。元気になったな」
 

 その言葉で彼が全てを知っているのだとわかった。
 祖母の事も、自分の昔の事も。やはり、桜門という目の前の男は、祖母が手紙を書いていた相手なのだ、と。


 「何を知ってるの?やはり、あなたがみき子おばあちゃんを殺したの?」
 「…………」


 初対面の人に「殺したか」と訪ねる事など失礼なはずだった。けれど、それしか確かめる方法がなかったし、あんな事が出来るのは目の前の不思議な男にしか成せないと思ったのだ。
 冬に咲く桜の花びらが、チラチラと落ちる。文月と桜門の間にも落ち、時々彼の顔が隠れてしまう。一瞬だったが、彼の表情は寂しげなものに変わったが、次の瞬間にはニヤリとした先程と同じものに戻っていた。