そこから、顔を出したのは寝間着にしては綺麗な柄の入ったものを着ていた女が顔を出した。海里より年上ではあるが、まだあどけなさが残る顔だった。白い肌に、艶のある綺麗な紙。けれど、咳をしていたからだろうか、頬は紅色に染まっていた。そして、目を引くのは大きな瞳だった。ガラスのようにキラキラと輝いて見えたのだ。
 「綺麗だ」と思ったのかこれが初めてだった。どんな景色を見ても、美しいと言われる女性を見に行っても、そんな感情が芽生えた事などなかった。その瞳の見惚れてしまっていた海里は、言葉を失ってしまう。


 「…………」
 「いらっしゃい。私のお客様ね。部屋にご飯があります。召し上がっていきませんか?」


 ボロボロの恰好にケガをしている海里。そんな相手を見て、この女は何を言っているのだろうか?海里は見惚れていた気持ちを消し去り、呆れ顔で返事をした。


 「………俺が誰かわかっていってるのか?」
 「私のお客様ですよね?ほら、いいからいらっしゃって」


 そういうと、小走りで海里に近づき、手をとってそのまま自分の部屋にひっぱっていく。
 迷いながらも、海里は「ごはん」という言葉の誘惑には勝てなかった。もう丸2日は水ぐらいしか口にしていない。食べていないからか寒さもいつも以上に感じてしまっていた。
 女の言う通り、そのまま部屋の中に入った。

 その部屋には大きな布団が敷きっぱなしになっており、他には化粧台とたくさんの着物棚、そして製本が置いてあった。