その時だった。
 町の近くにあるお屋敷が目に留まった。
 いつもは気にしなかったが、その日は何故だか気になったのだ。
 屋敷からコンコンッと咳が響いて聞こえたのだ。


 「風邪でもひいているのか?なら、盗みに入ってもバレないかもしれないな」


 海里はそう独り言を漏らし、町に向かうのを辞めて屋敷に侵入した。
 屋敷といっても、大きいものではないが、村の家々に比べれば立派なものだった。家を囲む塀を周囲の様子を伺いながら、海里はよじ登り屋敷に侵入する事に成功した。

 屋敷の中は人の気配がなかった。
 あるのは冷たい冬の空気と、乾いた咳の音だけだった。

 海里が屋敷に入る。冷たいけれど、しっかりとした木の廊下。
 その木はギシリと大きな音を出して軋んだ。
 その瞬間に、咳の音が止まった。ヤバいっと思った瞬間、ゆっくりと襖が開く音がした。


 「誰かいるのですか?でしたら、白湯を………あら?お客様?」